活動報告 Activity Report
CTIC通信第287号:金さんの帰国(3)
2025年05月09日
韓国での暮らし
相談員 大迫こずえ
入管に出頭し、12月の第1週には帰国できる(帰国しなければならない)ことになると、次の難問に向き合わなければならなくなりました。
金さんも朴さん(ともに仮名)も家族とは音信不通のうえ、金さんは60年近く、朴さんは25年以上祖国に帰っていないので、助けてくれる親族・知人がいないのです。所持金もありません。韓国の空港に降り立った後、高齢の二人はどこに行くのか、どこで暮らすのか、どうやって生活すればいいのか……。
CTICがお二人と出会って間もないころから何かと相談に乗ってくれていたイエズス会の中井淳神父様は、韓国に広いネットワークを持っています。二人に帰国の可能性が出た段階で、中井神父様は彼らの受け入れ先について、韓国の友人知人に声をかけてくれていました。その中の一人が、中井神父様が働く山口県下関市で活動している韓国人のシスタークララでした。彼女は健康を害し、治療のために韓国に一時帰国しており、11月15日には日本に戻る予定でした。しかし「アクシデント」が発生し、帰国が12月5日まで延期され、「チケットを無駄にしてしまった」とがっかりしていたのです。そんな時に中井神父様から入ったのが「身寄りのない高齢の夫婦が日本から帰国するけれど、彼らを受け入れてくれる場所に心当たりはないか」という連絡でした。シスタークララはすぐに金さんたちのために奔走してくれました。その中の一つが、彼女の所属する修道会のシスターが入所しているカトリックの高齢者グループホームでした。身寄りのない人、経済的に困窮している高齢者が、穏やかに、そして自由に暮らしている韓国中部にある施設です。そのグループホームの施設長であるシスターノエラに電話を入れると「夫婦用の部屋がちょうど空いていた!」のだそうです。私たちは何度も、この話は消えてなくなる夢ではないか、何かの間違いではないかと不安になったのですが、シスターノエラは、こちらからの情報をもとに着々と公的手続き進め、毎日その情報が更新されて行きました。
戒厳令騒動最中の12月4日、58年ぶりに祖国の土を踏んだ金さんと妻の朴さんは、金浦空港で「11月に私が日本に戻れなかったのはこの日のためでした」と笑顔で語るシスタークララにあたたかく迎えられました。一日早くソウルに到着していた中井神父様の案内で向かった施設の前では、シスターノエラが二人を抱きしめてくれました。
シスターノエラに迎えられた二人
現在、二人はカトリックの高齢者グループホームで、公的支援を受けながら、穏やかに、幸せに暮らしています。クリスマスの日にはミサに参加し、多くの入所者を代表して、祭壇の下の飼い葉桶の中に、幼子イエス様を捧げたそうです。
「どうして、こんなにたくさんのカトリックの人が、信者じゃない私たちに良くしてくれるのだろう」これはお二人が日本にいる時から、何度も何度も口にした言葉です。朴さんはその答えを求めて毎日施設や隣接する小教区の「祈祷」に参加しています。金さんも?いえ、彼は「もう少し考えてから」だそうです。(笑)
お二人に新たに与えられた時間が、神様の祝福で豊かに満たされことを心から願っています。(完)
追記 「復活前夜祭のミサの中でお二人が受洗することになった」とのニュースが舞い込んで来ました。霊名はヨセフとマリアだそうです。