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CTIC通信第285号:金さんの帰国(1)誤算

2025年03月07日

相談員 大迫こずえ

東京都の救急医療を担う病院のメディカルソーシャルワーカーから「韓国籍の高齢のご夫婦(内縁関係)を3週間ほど預ってもらえませんか?」との依頼の電話が入りました。お二人は数日前に山中で睡眠薬と殺鼠剤を飲んで心中を図っていたところを通りかかった人に発見され、救急搬送されたとのことでした。すでに体調も落ち着き、帰国を希望している。オーバーステイなので今後は入管に出頭し、帰国の手続きを行う必要がありますが、それは3週間ほどの手続きなので、「その期間、宿泊場所を提供してほしい」というお話でした。CTICはベタニア修道女会にお願いし、修道院の「離れのような場所」で受け入れていただくことになりました。

金さん(仮名)は81歳男性。日本で生まれ、小学校卒業間近に韓国に帰国。中学校、高等学校を韓国で卒業し、23歳の時に関西で事業を起こしていた父親を手伝うために再来日したものの、その会社が数年で倒産。後始末を父親に任せ、知人を頼って上京。「日本で生まれ育っていたため、日本語の読み書きも会話もできましたし、見た目もこんななので外国人と思われたことはありません。ずっと『日本人のように』暮らしていました。還暦を迎える頃から仕事はパソコンができる若者にとられるようになるし、どこでも身分証を求められるようになるし、どんどん生活が難しくなって」と「日本人と変わらない日本語」で話す金さん。

その後、何度も韓国に帰国しようとしたのですが、若かった時に期限切れのパスポートや外国人登録証を「帰国する時に取り直せばいい」と簡単に考えて捨ててしまっていていたために身分証が何もなくなっており、再発行を求めるにも来日直前に親が本籍地を移転していたので本籍地をはっきりと覚えていないこと、長年家族と音信不通になっていたために家族の助けを借りられないなど、まったく先に進めない状況に陥っていることが分かりました。彼が外国人であることも、韓国籍であることも、金という名であることも証明できない状態では、入管に出頭することも、韓国大使館に助けを求めることも、弁護士と委任契約を結ぶこともできません。どこに行っても「あなたがそのような人であることを証明する書類を何か見つけてから出直してください」と言われたそうです。金さんと日本で知り合った内縁の妻、朴さん(仮名)はそんな彼を見捨てることができず、25年前からオーバーステイとなって一緒に暮らしていました。収入が徐々に減り、借金もかさみ、ホームレス状態になり、「死を選ぶしかないと思った」のだそうです。

話を聞きながら理解したのは、金さんがこれまであちこちに相談してかなわなかった、「彼を証明する戸籍を探し出し、その写しを入手し、パスポートを作り直すこと」を私たちが行わなければ、彼らは「3週間」滞在予定のベタニア修道女会にいつまでも留まることになるということでした。 幸いなことに、先行きが全く見えない中でも、シスターたちのあたたかい声掛けや励ましのおかげで、二人は「助けられた命」を前向きに考え、日ごとに明るくなっていました。(次号に続く)

韓国仁川空港でのパフォーマンス