活動報告 Activity Report
CTIC通信第272号:韓国を訪ねて
2023年11月08日
朝鮮半島に隣接する中国の朝鮮族自治州出身の両親を持つ詠さん(仮名)は日本で生まれ、中学校一年までは両親と関東圏で暮らしていました。しかし、入管が両親に対して「在留を許可しない」という厳しい判断を下した時、一人日本に残ることを決めました。成績優秀な詠さんにとって、言葉や文化を全く理解できない中国に行くことは教育の機会を失うことになるからです。CTICに委ねられた詠さんは、中学でも高校でも優秀な成績を収めていましたが、高校2年の春、「日本でどんなにいい大学に入ることより、両親と暮らしたい」と、仕事を見つけて韓国に渡っていた両親と共に韓国で暮らすことを選びました。韓国語や韓国文化は多少理解できるからです。
中国籍の詠さんが韓国に渡るためにはビザ(査証)が必要です。私たちは韓国大使館で手続きを行ったのですが、ビザは発給されませんでした。政治的なことも絡んでいるので詳細を記すことはできませんが、詠さんが日本から韓国へ行く道が閉ざされたのです。そのため、詠さんが一旦中国に行き、中国で韓国行きのビザ申請を行い、許可を得て韓国に入国するしかありませんでした。
失敗が許されない最後の方法なので、韓国側に力のある協力者が必要でした。藁にも縋る思いで「北東アジアの平和と和解」活動を通じて韓国にネットワークを持つイエズス会の中井神父に相談したところ、すぐに韓国の関係者に連絡を取ってくれ、私はその支援者たちに会うため中井神父と共に韓国に渡りました。
仁川空港から直行したイエズス会人権連帯研究所のキム・ミン神父は、詠さんを留学生として入国させることを勧め、受け入れてくれるカトリック学校を探すこと、学費支援を行う団体と交渉することを約束してくれました。また、これまで日本で日本名を使って日本人と変わらない生活を送って来た詠さんがその名を失くし、「日本で育った中国人」として韓国で暮らす時に直面するであろうアイデンティティクライシスについて、「必要なら専門のカウンセラーを紹介します」と安心させてくれました。
何より私を驚かせたのは、キム・ミン神父の「これまで同胞のためによくしてくれてありがとう。これからは私たちに任せてください」という言葉でした。同じように「私たちの同胞を助けてくれてありがとう」そんな言葉をかけてくれたのは、議政府教区移民・難民センターのカン・ジュソク神父でした。センターには韓国に移住して来た多くの若者が集まっていました。そこで働くパスカル神父は、在留資格、入管制度に精通しており、詠さんのために力を尽くしてくれることを約束し、その日からLINEグループの中心となって詠さんのご両親や私たち関係者に、手続きを円滑に進めるための指示を次々と出してくれています。現在、中井神父、キム・ミン神父、カン・ジュソク神父、パスカル神父は、連絡を取り合いながら、詠さんの韓国入国と、その後の生活が確かなものとなるよう力を尽くしてくれています。
思いもかけず詠さんの問題を韓国のカトリック教会の方々と共有することとなったおかげで、私は、韓国カトリック教会のしっかりとした外国人支援の体制、準備の整ったたくさんのスタッフ、そして立場を超えて協力し合うその在り方を知ることができました。この大きな恵みを、今後のCTICの、そして東京教区の活動に活かしていければと思っています。
相談員 大迫こずえ
右より イエズス会人権連帯研究所(ソウル)キム・ミン神父、
イエズス会下関労働教育センター中井淳神父、筆者