活動報告 Activity Report
CTIC通信第265号:共に生きるために
2023年03月06日
祖国で日本語を勉強し、来日後は観光地のホテルで外国人観光客の通訳をしながら接客や清掃をしているAさんから「もうすぐ妊娠4カ月になるのですが、いつまで仕事は続けられますか」との問い合わせがありました。会社の同僚からは「妊娠した人は皆退職している」と聞いて心配になったそうです。産休・育休制度について説明し、辞める必要がないことを伝えたのですが、会社に迷惑がかかることを心配し、「しばらく考える」と言ったところでメッセージのやり取りが途切れてしまいました。Aさんから再度メッセージが送られてきたのは妊娠7カ月が間近な時期でした。「産休・育休を取得し、育児がひと段落した時点で職場復帰したい」と願いながらも制度の利用について逡巡は続いていました。いよいよ妊娠8カ月が近づいた時、「『出産後も仕事を続けたいのですが、産休・育休の手続きをお願いします』という希望を日本語で書いたLINE画面を会社の方に見せて意思を伝える」と決め実行したところ、数日後に問題なく手続きを進めてもらえたとのことでした。
Aさんと同じ時期に同じ国籍のBさんからも育休に関する相談がありました。「出産直後に夫が転勤で引っ越したため、元の職場に復帰する可能性も意志も失くしてしまっている。会社には伝えられないままに数か月が経過しており、このまま育休を継続し、給付金を受け取っていたいけども可能だろうか」という内容でした。彼女の家庭の経済状況が楽ではないことを知っていたため、給付金や社会保険料の免除を継続させてあげたいという思いが一瞬頭をよぎりましたが、「育児休業制度は復職して働きたい方のための制度」であること、この制度が今のようなものになるために多くの方が努力してきたこと、このままにしておくと返金を求められる可能性があることを説明し、職場復帰しないことが確定しているのであれば、早くそのことを会社に伝え、しかるべき手続きを進めてもらうようアドバイスしました。
日本社会の超少子高齢化とそれに伴う生産年齢人口の減少の解決策として、積極的に受け入れを進めている外国人労働者の数は、2022年10月末の時点で182万人を超え、過去最高を更新しました。今後も更新を続けて行くことでしょう。この外国人労働者の多くは20代の若者です。祖国の親元で社会性を身に着ける時期に来日し、働いているのです。その日本で、祖国になかった社会制度、あるいはあったとしても利用する機会のなかった制度を適切に利用することは簡単なことではありません。遠慮して権利を放棄し、自分の生活を困難なものにしてしまったり、悪意がないままに「ずるい人たち」「不正利用」と批判されたり、時には処罰の対象にもなってしまいます。若者たちからの相談を日々受けながら、彼らを大切に思い、文化の違いを乗り越えて共生するためには、社会の様々な制度について機会あるごとに丁寧に説明し、その権利と義務を正しく行使できるよう導くことが大切だと感じています。日本社会においても、日本のカトリック教会においても、もはや彼らは「お客さん」ではなく、私たちの次世代なのですから。
大迫こずえ