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CTIC通信第258号:健康保険は必要ですか?

2022年06月08日

大迫こずえ

外国人の若い人たちから「私、病気しないので、健康保険を止めることはできますか?」という質問を受けることが度々あります。若くて元気な人たちが、使うことのない小さなカードのために、毎月安くはない額を給与から天引きされたり、区役所から送られてくる納付書を持ってコンビニに行ったりすることを何とか無くせないかと思ったとしても不思議ではないでしょう。

「滞納した健康保険料について、督促を受けています。払わなければなりませんか」という相談を受けました。入国管理局から「週28時間」(夏休み、冬休みなど、学校が公式に定めている長期休暇期間中は週40時間)を超えて働くことを厳しく禁じられている「留学生」だった時、彼はそのルールを守りながら学費と生活費をすべて自力で賄っていました。風邪でアルバイトを休み、支払いが困難になったことをきっかけに、その後就職するまで保険料の支払いを怠ったということです。これまで一度も使ったことのない健康保険。そう遠くない時期に帰国することを検討しているので、今後も使うことがないかもしれない健康保険。現在の保険料だけでも負担なのに、かつての滞納分、さらには延滞金まで請求され、驚き、「支払わなければならないのだろうか」と悩んでいたのです。

日本の健康保険制度は「皆保険制度」であること、「皆保険制度」とは、全ての人が公的医療保険に加入し、全員が保険料を支払うことでお互いの負担を軽くする助け合いの制度であること、そのおかげで体が弱かったり、慢性的に治療が必要な人や通院回数が多い人でも医療費全額を支払わなくて済むこと、入院や手術、医療費が高額になる場合にも、一定の条件の元に定められた負担割合の支払いで医療を受けられること、さらに様々な医療助成が受けられることなど、病気がちだったり、透析治療を受けていたりする共通の知人のことを思い出しながら時間をかけて話し合い、一緒に返済計画を立てました。

この10年、アジア出身の若い世代の留学生、技能実習生が急増し、かつてのフィリピン、ペルー、ブラジルなどの労働者にとって代わっています。在留資格を持って滞在する外国人の29%が18歳~28歳の若者です。「2019年の新宿区の新成人の2人に1人は外国人」と報道されたことも記憶に新しいところです。彼らの中には祖国での社会経験が浅く、「日本に来て初めて働く」という人も少なくありません。祖国の社会制度もよく知らないままに来日し、日本社会の、自国にない多くの複雑な制度の中に身を置き、格闘しているのです。

外国人が急増した90年代後半から、特別な窓口を設け、弁護士など専門家を交えての「外国人相談」が各地で行われてきました。しかし在留の目的も、年齢も、国籍も変化している今、若い彼らが日本社会の中で「無事に」生きて行くためには、専門窓口における専門家による「外国人相談」よりも、日常生活について、また、身近な手続きや制度について、気軽に尋ねることのできる「安心できる場」と「信頼できる人間関係」がより重要なのではないかと感じています。更に親元を離れて暮らす若い人たちに対して、「保険料の未払い分を払うべきか、払わなくてもいいのか」の答えだけではなく、社会や社会制度にどう向き合わなければならないのかを、身をもって示すことが求められているのではないでしょうか。カトリック教会だからこそできる、そして行わなければならない外国人支援の姿を、彼らと共に日々模索し続けて行きたいものです。