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CTIC通信第249号 :技能実習生の問題から

2021年07月08日

ヒエンさん(仮名)の実習先の問題は、仕事の大変さや上司の暴言だけでなくコロナ禍で増加している休業に対して何の補償もしてくれないことでした。来日のために作った借金を返し、家族へのわずかな仕送りをすると、自分のための生活費はほとんど残りません。ヒエンさんと10人の同僚は、一人の実習生のトラブルをきっかけに、実習生全員で一致して会社に向き合うことを決めました。そのため、まずはユニオンのスタッフに自分たちの権利について教示を求め、会社への要求を文書にまとめました。そして、所属する小教区の通訳の方に日本語への翻訳と、言葉で伝わるよう日本語指導をお願いし、会社と話し合いを行いました。最初は強気だった会社も、教会の支援者や労働組合の影が見え隠れしていたことに加え、新たな失踪者が出たこともあって、現在は要求の大部分を受け入れる約束をしています。

「現代の奴隷制度」と批判され続けてきた技能実習制度において、このようなことが可能になった背景には2017年に施行された「技能実習法」による管理団体への監督強化があります。実習生の受け入れを行ってきた管理団体は「技能実習機構」という組織から認可を受けなければならなくなりました。実習機構の指導に従わない場合には、管理団体としての認可が取り消されることもあります。実習生に対する人権侵害についても禁止規定が設けられ、違反した場合には罰則が課されるようになったのです。

妊娠した実習生ハインさん(仮名)が、多くの先輩たちのように「強制帰国」されることを恐れながら会社に「妊娠」を伝えたところ、軽作業への異動が行われました。送還を恐れ、妊娠を打ち明けらなかった実習生の「生まれたばかりの子どもが命を落とす事件」が相次いだため、実習機構から出された「妊娠や出産を理由に解雇などの不利益な扱いをすることは禁止」の注意喚起の成果なのでしょう。

しかし、ハインさんの実習先のような大企業ではない、地方の小規模な企業や農家に同様の対応は行えません。

事実、日本での出産を希望している実習生マイさん(仮名)は、会社に「妊娠」を伝えられずにいます。彼女が日本で出産した場合、出生届、大使館での登録、入管での在留資格取得など、やるべきことがたくさんあり、それらを行う時には、管理団体の外国人コーディネーターの手を借りなければなりません。ただでさえ過重労働になっているコーディネーターには、「新生児の手続きのサポート」が大きな負担となるため、嫌がられることを彼女は知っているからです。会社に「妊娠と日本での出産を希望していること」を告げる時には、同時に、「公的な手続きを手伝ってくれる教会の人たちがいる」ことを話すことを決め、マイさんは会社に妊娠を伝える決心ができたようです。

技能実習制度だけでなく、日本の外国人政策や労働政策の歪みを負っているのは、実習生だけではありません。実習機関と実習生の板挟みになって疲弊し切った管理団体のコーディネーターや、「外人さん」と接した経験がないために、実習生とコミュニケーションに悩む地方の小さな受け入れ企業の人たちも同様です。彼らの中のある人たちは、それぞれの立場で、「社会の中で小さくされた人」なのかもしれません。ひとつひとつの問題と丁寧に向き合い、解決のためにできる支援を、惜しまずに行うことが求められています。

相談員 大迫こずえ

CTICは葛西教会に集まるベトナム青年たちの支援を行っている